下水処理由来の藻類バイオマスを製造材料へ転用、UNSW新研究が示す資源循環の可能性
ニュースの概要
オーストラリアのUNSWシドニーが、水道事業者のSydney Waterや藻類バイオ企業のPacific Bioと連携し、下水処理の過程で回収される藻類バイオマスを製造業向けの新素材として活用できるか検証する研究を進めている。従来、下水処理で増殖した藻類は水質浄化の副産物として扱われることが多かったが、研究チームは廃棄繊維などの未利用素材と組み合わせることで、接着剤のようなバインダーや樹脂に近い性質を持つ材料へ加工できる可能性を探っている。水質浄化という一次利用を終えた藻類を、さらに資源として循環させる発想が特徴で、実用化が進めば廃棄物削減と素材の安定供給を同時に実現できる可能性がある。
引用元: 下水処理由来の藻類バイオマスを製造材料へ転用する研究が進展(UNSW Sydney / Australian Manufacturing)
分析・見解
藻類が「浄化装置」から「原料」に変わる発想の転換
下水処理における藻類の役割は、窒素やリンを吸収して水質を整えることだった。今回の研究が面白いのは、その役割を終えた藻類を単なる産業廃棄物として処分するのではなく、建材や工業製品の原料として使う発想に切り替えている点だ。藻類の細胞壁には多糖類やタンパク質が豊富に含まれており、これが接着剤(=バインダー)や樹脂のような粘着性・結着性を生み出す素材になりうる。水質浄化という「下流」の工程で生まれた副産物を、さらに別の産業の「上流」原料に回すという二段階の資源循環は、単純なリサイクルよりも設計の難易度が高く、だからこそ研究段階にとどまっている。
廃棄繊維との組み合わせが示す複合材料への布石
注目したいのは、藻類バイオマス単体ではなく、廃棄繊維などの未利用素材と組み合わせている点だ。これは藻類由来の成分を接着剤として使い、繊維を補強材として使う複合材料の発想に近い。木材と樹脂を組み合わせたパーティクルボードや、植物繊維とバインダーを組み合わせた断熱材と同じ設計思想であり、藻類を主役ではなくつなぎ役として位置づけている。この設計は、藻類の収量が天候や処理場の運転状況によって変動しやすいという弱点を、廃棄繊維という比較的安定供給できる素材と組み合わせることで緩和しようとする狙いとも読める。
実用化までに越えるべき品質と供給量のハードル
一方で、研究段階から実用化段階に進むには、少なくとも二つの壁がある。一つは品質の均一性だ。下水処理場ごとに藻類の種類や成長条件は異なり、バインダーとしての接着強度や耐水性が安定しなければ工業材料として採用されにくい。もう一つは供給量の確保で、建材や工業部材として意味のある量を確保するには、複数の処理場から藻類を集約する物流網が必要になる。食品やサプリメント向けの藻類生産が純度や安全性を重視するのに対し、今回の用途は工業材料としての機能性が問われる点で、評価の軸そのものが異なる。
藻類バイオ業界にとっての新しい出口戦略
藻類バイオ業界はこれまで、燃料、食品、化粧品原料といった高付加価値用途を中心に成長してきたが、いずれも生産コストの高さが普及の壁になっていた。製造材料という用途は、食品や燃料ほどの純度を求められない分、コストの制約がゆるく、下水処理という既存の社会基盤を使える点で量的なスケールを狙いやすい。既に水質浄化のコストを下水処理事業者が負担している以上、藻類の回収自体は追加コストの少ない副産物として扱える可能性があり、ここに新しい収益源を見出す動きが広がるとみてよい。
ビジネスへの影響
原材料の調達戦略に下水処理由来の藻類を加える発想
建材メーカーや樹脂メーカーの開発部門にとって、今回の研究は新しい原料候補が一つ増えたという以上の意味を持つ。石油由来の樹脂や輸入木材チップへの依存度を下げたい企業にとって、下水処理場という地域に必ず存在する原料産地を使えることは、調達リスクの分散につながる。特に水資源やインフラを扱う企業であれば、既存の下水処理事業者と提携し、藻類バイオマスの供給契約を早期に試験的に結ぶ余地がある。
日本でも応用可能性はあるが制度面の確認が先
日本国内でも下水処理場での藻類活用は一部で検討されているが、今回のような製造材料への転用は制度上の位置づけが明確でない。下水処理由来の副産物を工業原料として販売する際には、廃棄物処理法上の扱いや、安全データの提出義務などを自治体や国と事前に確認する必要がある。研究段階の技術を国内で追いかけるなら、まずは大学や公的研究機関との共同研究の形で小規模に検証し、規制上の論点を早期に洗い出すのが現実的だ。
藻類バイオ業界への投資判断は用途の裾野で見る
投資や事業提携を検討する立場であれば、燃料や食品用途の藻類企業を評価する際に、製造材料という新たな出口が追加されたことを加点要素として見てよい。単一用途に依存する藻類企業は市場価格の変動に弱いが、複数の出口を持つ企業は収益の安定性が高まる。今回のような研究に名前が挙がる企業や大学の動向を定期的に追うことは、業界全体の技術的な成熟度を測る指標にもなる。