微細藻類オイルが産業規模へ、魚油代替の現実味を探る
ニュースの概要
デンマークの微細藻類企業Algiecelが、同国カルンボーにあるNovonesisの施設内に新しい生産拠点を開設した。培養するのは、オメガ3脂肪酸を含む微細藻類Nannochloropsis oceanicaである。人工光と水、回収したCO2を使い、モジュール型のバイオリアクター(=藻を育てる密閉式の培養装置)で育てる。これまでの試験的な生産から、産業規模の供給へ段階を進める位置づけだ。生産能力は従来の約5倍に増える見込みである。主な販売先として、欧州のペットフードや化粧品分野が想定されている。天然魚油に代わる、持続可能な原料として売り込む狙いがある。
引用元: Algiecel、Novonesis施設内で微細藻類オイルの商業規模生産を開始(NutraIngredients)
分析・見解
大手の発酵工場に間借りする、身軽な立ち上げ方
このニュースで最初に目を引くのは、技術そのものより立地である。Algiecelは自前の大型工場を建てず、酵素や微生物の大手であるNovonesisの施設内に拠点を置いた。藻類ベンチャーが苦しむのは、実験室で成功した後の「死の谷」と呼ばれる時期だ。設備投資が重く、買い手も決まらないまま資金が尽きる。
既存の工業団地に入れば、電力、水、排水処理、CO2の供給網をそのまま使える。発酵工場の排ガスに含まれるCO2を、藻の餌として回収できる点も大きい。廃棄物が原料に変わる構図であり、循環型をうたう根拠にもなる。
太陽光ではなく人工光を選んだ意味
微細藻類の培養は、屋外の池で行う方法が長く主流だった。安価だが、天候や雑菌に左右される。Algiecelは閉じた装置の中で人工光を当てる方式を選んだ。電気代はかかる。その代わり、季節や緯度に関係なく同じ品質のオイルを毎日つくれる。
北欧は冬の日照が短く、屋外培養に向かない。再生可能エネルギーの比率が高いデンマークなら、電力由来の排出を抑えながら周年生産できる。立地の弱みを、制御のしやすさという強みに変えた設計だといえる。
モジュール型という点も見逃せない。同じ装置を並べて増やすため、需要が伸びたら段階的に拡張できる。大きな池を一度に造る方式より、投資の失敗リスクが小さい。
魚油の代わりになるのか、価格との勝負
魚油は、乱獲への懸念と価格変動に悩まされてきた。南米沖の漁獲量はエルニーニョの影響で大きく振れ、原料価格も上下する。藻類オイルは、魚がオメガ3を摂る元をたどれば同じ藻にあたるため、中身は理にかなっている。しかも海洋汚染物質を含みにくい。
比較対象として、同じデンマークのNovonesisや、米国のDSM-Firmenichは、発酵で作る藻類由来のDHA(オメガ3の一種)をすでに供給している。つまり市場は実在する。ただし、これまでは人の健康食品が中心だった。
今回の狙いがペットフードにあるのは示唆的だ。ペット用は単価に敏感だが、環境配慮を理由に少し高くても選ぶ飼い主が増えている。化粧品は付加価値が高く、価格差を吸収しやすい。まず支払い意思の高い用途から入るのは、堅実な順序である。
5倍の増産でも、魚油の規模にはまだ遠い
冷静に見ておくべき点もある。世界の魚油は年間百万トン前後が流通する。5倍に増えたといっても、元が小さければ市場全体への影響は限られる。当面の効果は、供給量そのものより、藻類オイルが量産できると実証した点にある。電力単価と収量が計画どおりに出るかが、次の関門だ。
ビジネスへの影響
原料調達の選択肢を増やす好機
食品、サプリメント、ペットフード、化粧品の各メーカーにとって、魚油一本に頼る調達は価格と供給の両面でリスクになる。藻類オイルを第二の調達先として早めに評価しておく価値がある。小ロットの試験購入から始め、酸化しにくさ、においの有無、配合のしやすさを確かめるとよい。
欧州では環境主張の根拠が厳しく問われる。CO2の回収利用や周年生産といった数字付きの説明が得られる原料は、販売時の裏付けとして使いやすい。
日本企業が学べる、設備の借り方
日本にも、発酵や食品加工の大規模な工場がある。そこで出る排ガスや排熱を使えるなら、藻類ベンチャーと組む余地は大きい。工場側は未利用資源を価値に変えられ、ベンチャー側は設備投資を抑えられる。
自社で藻類を扱わない企業でも、敷地の一角を貸す、CO2を供給するといった形で参画できる。投資額の小さい提携から始めるのが現実的だ。
見極めるべきリスクと判断の目安
導入判断では、価格、供給の安定、認証の3点を見る。藻類オイルは現状で魚油より割高になりやすい。まず付加価値の高い商品で採用し、量産で価格が下がるのを待つ段階的な進め方が無難である。
供給元が1社に偏ると、新たな依存を生む。複数社と並行して契約交渉を進めておきたい。