塩を好む藻類が海水淡水化を支える?Algaenius受賞が示す水処理の新しい方向
ニュースの概要
欧州の水分野のイノベーション組織EIT Waterが、スペイン南部のマラガで開いた発足イベントで、2026年のWAVEMAKER Innovation AwardにAlgaeniusを選んだ。同社は、塩分の多い環境でも育つ好塩性藻類を使い、海水淡水化の前処理を担わせる技術を開発している。藻類のバイオマスを作るだけでなく、藻類の代謝の働きを水処理の工程に組み込み、淡水化にともなう環境面や運転面の負担を減らす狙いだ。水不足が深まる欧州で、淡水化の弱点を生き物の力で補う試みとして評価された形である。
引用元: Algaenius、塩分を好む藻類による海水淡水化前処理でEIT Water賞を受賞(EIT Water)
分析・見解
海水淡水化の泣きどころは、膜に届く前の水にある
海水淡水化の主流は、逆浸透膜(=塩を通さない薄い膜に海水を押し当てて真水を得る方式)である。この膜は繊細だ。取水した海水に藻類や有機物が多いと、表面に微生物が張り付いて詰まる。これをバイオファウリングと呼び、洗浄の回数や薬品、電力の増加につながる。そのため取水後に、砂ろ過や凝集剤で汚れを落とす前処理が欠かせない。
2008年から2009年にかけてオマーン湾で起きた赤潮では、周辺の淡水化施設が取水の制限や減産に追い込まれた。淡水化にとって、藻類は長く厄介者だった。Algaeniusは、その藻類を水処理の味方にしようとしている。
厄介者の藻類を、前処理の担い手に変える発想
公表されている範囲では、同社は塩分を好む好塩性藻類の代謝(=生き物が栄養を取り込んで別の物質に変える働き)を、前処理の工程に組み込む。仕組みの細部までは明らかでないため、断定は避けたい。ただ、好塩性藻類には海水よりずっと濃い塩分で育つ種が多い。ドナリエラ属のように、色素のβカロテンを作る例もよく知られている。塩分が高い環境でこそ増えるという性質は、海水を扱う現場では強みになる。
これまでの微細藻類による水処理は、下水の栄養分を藻類に食べさせる研究が中心だった。だが、得られる藻類の売値が低く、採算が合わないという壁があった。淡水化は水そのものの価値が高い。その分、藻類を副産物として扱う余地が生まれる。ここが従来との大きな違いである。
電力と濃縮塩水の負荷を、前処理から減らせるか
淡水化は水を生む一方で、重い負荷を抱える。逆浸透法の電力は、真水1立方メートルあたり3〜4キロワット時程度とされる。さらに、塩分を濃くして捨てる排水(=濃縮塩水)が海に戻る。前処理が良くなれば、膜の詰まりが減り、洗浄や圧力の上昇を抑えられる可能性がある。小さな改善でも、24時間動き続けるプラントでは年間の差が大きくなる。
開催地のあるスペイン南部は渇水が続き、淡水化への依存が強まっている。EIT Waterが今回の企業を選んだ背景には、水不足への即効性と環境負荷の低減を両立させたいという欧州の事情がある。
賞は商用化の保証ではない、実証データが次の分かれ目
注意すべき点もある。受賞は技術の将来性への評価であり、商用化の保証ではない。淡水化プラントは大量の水を連続で処理する。藻類の培養槽がその量に追いつくのか、水温や天候の変化に耐えられるのかが問われる。藻類が増えすぎれば、逆に膜を詰まらせる側に回る恐れもある。処理量、薬品の削減率、藻類の売り先を数字で示せるかが、次の分かれ目になる。
ビジネスへの影響
淡水化の事業者は、まず自社の前処理コストを数字にする
取水する海水の質は、季節や天候で大きく変わる。まず自社プラントの過去記録から、藻が増える時期の洗浄回数、薬品費、停止日数を洗い出したい。新しい前処理を試すかどうかは、この基礎数字で決まる。
数字が手元にあれば、実証への参加を持ちかけられたときも条件交渉がしやすい。日本でも離島や工場で淡水化が使われており、赤潮の被害は決して遠い話ではない。海外の実証結果は、国内の水インフラにも関わってくる。
藻類事業者には、水処理という新しい売り先が見える
藻類事業の悩みは、製品の売値と培養費の差である。サプリ、化粧品原料、燃料のどれも、単独では採算が厳しい場面が多い。水処理のサービス料を収入に加えれば、藻類そのものが安くても事業が成り立つ余地が生まれる。
培養設備や優良な株を持つ企業は、水処理会社との共同実証を検討する価値がある。培養費の考え方は、当サイトの培養コストの解説が参考になる。同様に藻類の力を使う企業の動きは、企業・スタートアップの一覧でも追える。
提携や投資の前に、確認したい三つの数字
受賞歴だけで判断するのは危うい。確認したいのは三つである。一つ目は、処理水量あたりの薬品と電力の削減率。二つ目は、回収した藻類の量と売り先。三つ目は、赤潮のように藻が急増した時の運転実績である。
この三つが実機で示されれば、導入判断の材料になる。逆に、小さな実験室の結果だけなら、段階的な試験にとどめるのが無難だ。契約では、効果が出なかった場合の費用負担も先に決めておきたい。